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装飾古墳に描かれた文様の紹介

装飾古墳における文様には様々なパターンがあります。円文や連続三角文に代表される幾何学文様や人物、刀、あるいは船(舟)。これらの装飾が持つ意味については、様々な解釈が行われてきました。
ここでは、装飾の文様について分類しながら描かれているものの意味について考えていきます。

1 幾何学文様
幾何学文様について代表的な文様を上げていきます。円文(同心円文)、連続三角文、菱形文、直弧文などです。これらの文様の中で円文は鏡、太陽、星など諸説ありますが、古い石棺系装飾古墳の中には、明らかに鏡をモチーフとした円文があることから、鏡を描いたものとする説が最も根拠あると考える考古学者もいます。以下でもう少し幾何学文様を細かに見ていきたいと思います。

(3)直弧文

直弧文は直線と帯状の弧線を複雑に組み合わせた文様で、広川町の石人山古墳の石棺の蓋、宇城市鴨籠古墳の石棺蓋、久留米市浦山古墳の奥壁等に描かれています。この直弧文は古墳時代に入る少し前の弥生時代後期後半頃に吉備地方(今の岡山県あたり)で作られた特殊器台に描かれていることでよく知られています。
その起源については、この時代の首長の葬送儀礼の関わる呪術的な意味として破邪の文様と考えられます。この直弧文は6世紀中頃までは横穴式石室の石障に描かれていますが6世紀後半頃には無くなってい行くようです。


(2)連続 三角文

 三角文は単独で描かれることまれで、横または縦方向に連続的に描かれます。代表的なものとして山鹿市チブサン古墳の石屋形(いしやかた)の屋根の縁に描かれています。この連続三角文の初源の一つとして県北の和水町にある塚坊主古墳の石屋形奥壁の連続三角文があります。
 この文様が何を意味するかにはいくつかの説があります。その一つは古墳の副葬品である青銅鏡の縁にある連続した三角が魔除けの意味をもって装飾古墳井描かれたとする説です。石室の奥壁や羨道部の袖石に描かれていることが破邪と刺される理由です。一方で福岡県の桂川王塚古墳の装飾については戦に使う陣幕とする説もあり興味は尽きません。

(3)円文(同心円文)

 円文(同心円)は装飾古墳を代表する文様です。先ほどの連続三角文とセットで描かれていることが多いのも特徴です。この円文で最も初源のものは4世紀後半に造られた福井市にある小山谷石棺の舟形石棺の棺蓋に浮彫で描かれています。個々の描かれた円文は中央に突起状の表現があることから鏡を模したと考えられます。もともと青銅鏡は副葬品として、埋葬者の頭部を囲むように並べてあったことから魔除けの意味があるとされています。一方で県内の装飾古墳では5世紀の初め頃に八代海沿岸部にある古墳の石棺の内面に刀などの武具類とともに浮彫や線刻で描かれています。上天草市にある大戸鼻南古墳の円文の縁には連続三角文があり、中央には小さなくぼみがあり、円文の上部には吊るされたと考えられるひも状のものもあり、これらから鏡を模したものと考えられます。このように円文は鏡とする説が有力ですが、福岡県の桂川王塚古墳のように石室全体を埋め尽くすがごとく円文が描かれており、鏡以外に満点の星空を描いたと考える人も多いようです。

(4)蕨手文(わらびてもん)
 装飾文様の中でも珍しい文様です。上下もしくは左右のどちらかに向かって二本の線の先端が外側に開き中央には渦巻を描く文様です。この文様が何を表しているのかははっきりしていませんが、南開産のゴホウラ貝輪がモチーフではないかと考える説もあります。

(5)渦巻き文(渦状文)
 関東や東北など東日本で多く描かれている文様です。中央から外に向かって渦を巻いているよう描かれていることが特徴です。福岡市の吉武熊山古墳では奥壁にこの文様が描かれています。円文が変化した文様と考える説もあります。福島県の泉崎横穴墓の奥壁には人物の方につながった渦巻き文が描かれれいます。

(6)格子文(斜格子文)
 格子文は佐賀県・長崎県の有明海に面した地域に多く見られる文様です。佐賀県妻山4号墳では線刻で石室のあらゆる場所に描かれています。連続三角文が変化した文様とする説もありますが、描かれる場所が連続三角文とは異なることから、死者の家の壁であるとする説もあります。

(7)双脚輪状文


 双脚輪状文は非常に珍しい文様の一つです。九州でも5例ほどしか確認されていません。代表的なものは福岡県の王塚古墳、熊本市の釜尾古墳、装飾古墳館の近くに移設している横山古墳です。この文様は、二つの脚が外側に向かって開いており、中央には同心円とその縁に連続三角文が表現されています。双脚と呼んでいますが、横向きに描かれているものもあり必ずしも下に向いて描いていません。この装飾文様は6世紀中頃に限られています。この双脚輪状文は意外なものに使われています。それは和歌山県にある岩橋千塚古墳群中の大日山35号墳出土の人物埴輪です。この人物埴輪の冠帽にこの装飾文様が使われていることから、何らかの呪術祭祀に用いられていたと考えられています。いずれにしても謎の多い文様です。

(8)菱形文(菱形文)
 山鹿市のチブサン古墳の石屋形奥壁に描かれている文様です。斜格子文とは異なり連続で表現されており、連続三角文が変化したものではないかと考えられています。


(9)具象画

 人物、刀などの武具類や家屋、動物など多岐多様のものが描かれています。5世紀前半ころに造られた八代海沿岸部の古墳の石棺の内面に描かれているものは被葬者に対する副葬品を描いたと考えられますが、菊池川流域にある山鹿市弁慶が穴古墳の馬、船、同心円文などは黄泉の国への旅立ちを描いたとする説もあり、ある種の物語を想定させられます。